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①いってらっしゃい(×・家族)

何気ない日常さえも、幸せに思えたら。
それが、本当の意味の幸せだと実感できたら。
ただ、満足すると思うんだ。
無意識に、呟いていた小さな願望。
何事もなく、心のままに呟いていた願い。
キラ事件も、どことなく展開を鈍くした今日この頃は、捜査本部にもアットホームな雰囲気が流れる。
そんな中、月は竜崎と別室で休憩をとっていた。
ソファに腰掛け、一息。
相変わらず手錠が痛いけれども、文句を言える立場ではない。
しかし、いつになったら文句を言えるのかと聞かれれば、わからないと答えるだろう。
それほどまでに、自分の横にいる存在は掴み所がなかった。
月はため息をついて、ワタリが用意した紅茶に口をつける。
大人しい味が口に広がる。
ちらりと横の竜崎を見れば、竜崎は何かを考えているらしく紅茶に砂糖を入れる手を休めていなかった。
そんな事をしたら、体を壊す。
何度言っても拒否された言葉を、月は飲み込む。

「月君」

竜崎が口を開いたのは、不意のことだった。
月はどこか驚いたように顔を上げる。
しかし、本当に驚くべきはその後に続く言葉だった。

「この状態を、改善しませんか?」
「え?」
「手錠、邪魔でしょう」
「邪魔と言ったら、邪魔だけど…」

無くしてくれるのか。
言外に含めて言った言葉に、竜崎はドアを指さした。

「条件があります」

ドアの向こうは、廊下に繋がる。
一体、何事だろうか。
目をぱちくりとさせる月に、竜崎は続けた。

「これから毎日、私にいってらっしゃいと言ってください」
「…いってらっしゃい」
「はい。でも、今は捜査本部にいるので深い意味はありません」

首を傾げる月。
相変わらず、竜崎の話は突拍子もないことばかりだ。

「じゃあ、どんな時に意味があるんだよ」
「それは、月君が私の妻になった時です」
「…は?」
「ホテルとは別に、一軒家を作りました。ここからそれほど遠くありません。セキュリティーも万全です。部屋数もありますし、夫婦の寝室もあります。ようするに、結婚してくださいということです」

サラリと告げるには、随分と遠回りな告白だ。
絶句する月の姿に、竜崎は言葉が理解できていないのかと顔を覗き込む。
月は、目の間に突然現れた黒い瞳に、はっとした。

「…ごめん」
「断る理由はありませんよ。あと、断れるほど月君が人間としてなっていないとも思えません」

竜崎と夫婦になるぐらいならば、人間を捨てても良いだろう。
それ以前に、話は変わるのだが先ほどの謝罪の言葉に深い意味はない。
月が言葉を濁していると、竜崎がワタリを呼んだ。
ドアの向こうに、人の気配がする。

「…竜崎?」
「ワイミーズ、という私が育った施設から、私の後継者を呼びました」
「後継者?」

ドアが開く。
そこにいたのは、小さな子供が二人。
銀髪の少年と、金髪の少年。
二人は服装も相反するようでありながら、それこそ存在自体が相反するようだった。

「紹介します。銀髪がニア、金髪がメロです。二人とも、この人が二人のお母さんになってくれる月君です」
「こいつが?」

沈黙を破るように、真っ先に口を開いたのはメロだった。
ニアはどこか思案することがあるように、くるくると髪の毛を弄る。
月は突然の展開に、慌てて竜崎を見た。

「おい、竜崎」
「月君、せっかくの可愛らしい顔が台無しですよ」
「説明しろ…」
「だから、言った通りです。私たちは家族になりました。今、この瞬間」

竜崎が積み上げた砂糖が、カップから落ちる。
コロンと、静寂に音が響いた。

「あ、因みに月君がお母さんになってくれないと、二人とも居場所がなくなります。施設からは完全に孤立させたので」

竜崎は確信に満ちた顔を月へと向ける。
孤立や孤独という言葉に、月は弱い。
自分が暖かな家庭で育ってきたということもあり、幼い彼らを野放しにはできない。
完全に、自分が折れるしか手はないようである。
月はため息をつきつつ、子供たちに歩み寄った。

「僕は月。月って呼んで」

手を差し出した月に、二人は顔を見合わせる。
そして、おずおずと手を握り返した。

「俺は、メロ」
「…私は、ニアです」
「メロ、ニア、よろしく」

にこりと微笑んだ月に、二人はどこか顔を赤らめながらも小さく頷く。
竜崎は、すっかり馴染んだ空気に一歩歩み寄った。
子供たちに見えないように、月が咄嗟に竜崎を睨む。
その視線に、竜崎は笑った。

「月君だって、本気で嫌なわけじゃないでしょう」

見透かされている台詞に、月は顔を真っ赤に染めた。

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