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新居への引っ越しも終了し、月は力を抜くように息を吐く。
半ば言い逃げするように出てきてしまった実家。
残してきた母や父、そして妹の存在が頭を過ぎる。
だが、うかうかしている暇はないのだと言うように、月の思考を乱す足音が響いた。
「月ー。これ、どこに置けば良い?」
実家から持ち込んだ月の荷物を抱えるメロ。
月は慌てて立ち上がると、夫婦の寝室とされた広い部屋の隅を指さした。
「ごめんね、手伝ってもらって」
「別に気にすんなって」
楽しそうに笑い、自分よりも背の低い彼は荷物を置く。
「こういうのは、竜崎にやらせたかったんだけどね」
「あいつはあいつで、本部に仕事があるんだろ」
月の一言に、メロは平然と返す。
理解力の高い子供に、月は自分の幼少のころを思い出してしまう。
そんな中、ぼうっとしている月の服の裾を引っ張る手があった。
「月さん、荷物整理が終わりました」
「ありがとう」
既におもちゃを抱え込んでいるニアに、月は微笑む。
そして、ちらりと壁にかけてある時計を見た。
既に時刻は昼下がりを指している。
流石に、お腹も減る時間だ。
ダンボールで汚れた指先をはらい、月は頷いた。
「そろそろ、ご飯にしようか。といっても、簡単なものしか作れないけどね」
月の一言に、メロはぱっと顔を輝かせる。
「じゃあ、俺は肉が食いたい!」
「私は肉は嫌いです」
メロの一言に、間髪入れずに言うニア。
にらみ合う二人に苦笑しつつ、月は二人の小さな手を取った。
突然のぬくもりに、二人は顔を上げる。
そこには、穏やかな顔をした月の姿があった。
「間を取って、手軽なチャーハンにする?それか、オムライス」
提案が、愛しかった。
今までは誰も意見なんて聞いてくれなかった。
手を握りしめてくれなかった。
雑用に思える行為も、何も。
自分たちとはかけ離れた世界にあって。
一つ屋根の下に、これだけの少数で暮らすことは初めてだった。
生まれて初めての幸せが、この人と共にあって嬉しいと思う。
二人は、温かい手に笑った。
「オムライス!」
「私も、オムライスが良いです」
「うん」
旦那のいない家に、三人の笑い声が響く。
楽しげな声。
愛しいという声。
幸せという声。
何よりも、実感する。
綺麗な月の笑顔に、二人は愛しさを感じた。
これから、守っていきたいと思った。
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