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③酒屋さん(×・家族)

それとなく家庭というものが四人に執着してきた今日この頃。
竜崎はパソコンを前に唸っていた。
というのも、最近は仕事の関係か家に帰る時間が必然的に遅くなるからである。
だからと言って、家に仕事は持ち込めない。
血なまぐさい仕事だと尚更、すっかり母になった月の眼が厳しく光るのだ。
なんでも、子供にそんなものは見せるなという。
しかし、彼らはLの名を継がせるために呼んだはずだ。
月に対して説明不足だったかと思う一方で、どうせ説明しても現状は変わらなかっただろうと確信して諦める。

「それにしても、暇です」

竜崎は印刷された資料をつまんだ。
一通りながめ、早々と伝えることだけを捜査本部に流す。
月には、完全にキラについての情報を伏せることにした。
それが、何よりも彼のためだと思ったからだ。
実際に家庭に入るようになってから、月の温和な笑顔が増えた。
雰囲気も明るくなった。
それが、嬉しかった。

「でも、寂しいものは寂しいですよね」

お父さん、拗ねますよ。
小さく呟いて、答える者がいないことに嘆く。
ちょっと、惨めだった。
竜崎が一人でため息をついていると、ピーという電子音が響く。
見れば、パソコンに設置したアイコンの一つが点滅していた。
ようやくはじまったかと、重い腰を上げる竜崎。
瞳を輝かせる先には、竜崎の名前を掲げた一軒家が建っていた。

「竜崎、本当にするんですか?」
「良いから、やりなさい」

カメラから聞こえてくる松田の情けない声に一喝。
松田はそんな役目だと、小さくため息をついた。
カメラ越しにでも、どこか面倒くさいと伝わってくる。

「松田、減給しますか?」
「え!や、やりますから!」

職権濫用という言葉を自在に操る竜崎に、松田はカメラを持ち直す。
そして、ゆっくりとインターホンを押した。
ピンポーンと、一番家庭に似合うと選んだ音が響く。
数秒後、カメラ付きのインターホンから怪しむような声が聞こえた。

「誰だ?」

竜崎は音声から、対応したのはメロだと判断する。
それ以前に、月のいないこの家でインターホンに出るのは彼ぐらいだろう。
ぶっきらぼうな態度は改善の余地があるとして、その後の成り行きを見ることにする。

「あ、酒屋です」
「さかや?…ああ。酒屋が、なんのようだ?」
「新しいワインが発売されたので、試飲にとお配りしています」
「あいにく、この家で酒を飲む奴はいないから」

メロの言葉は正しい。
ニアとメロと月は未だに未成年である。
すると、竜崎のために酒を買うのかという話になるが、当然のように月が却下する。
竜崎は基本的に酒はあまり好きになれないので、余程のことがない限りは手を出さない。
よって、この家にアルコールは必要ない。
的確なメロの言葉に頷く竜崎。
しかし、その実態はただ対応が面倒だったという一言なのだろう。

「でも…」

松田はそれでも、竜崎がいる手前帰れなかった。
カメラの設置された段ボールを持ちながら、困ったように頬をかく。
その姿に、インターホンの向こうの気配が動いた。

「メロ、何をぐずぐずしてるんですか」

高性能マイクが、インターホンの向こうの言葉をキャッチする。
発言からしても、ニアだ。
面白い展開になったと、竜崎は爪を噛みながらパソコンを見つめる。

「いや、なんかしつこいセールス」
「そういうのは断れって、月さんが言っていました」
「じゃあ、切るか」
「早くしてください。次はメロの番です」
「あ、お前、俺がいない間にポーン動かしてないよな」
「そんな事をしなくても、メロには勝てます」
「ニア、てめえ!」

怒鳴り声と共に、ブツッと通信の切れる音が響く。
二人でチェスでもしていたのだろうか。
しかし、どうやら相変わらずニアの方が一歩上をいっているようだ。
今日の対応から見て、メロは年上としての役割をそれなりにこなしているので面目はあるが。
一人頷いている竜崎に対し、松田は途切れた会話に硬直する。
ドアの前で固まる姿は、周りから見ても不審者だったのだろう。

「…松田さん?」

聞きなれた愛しい声がして、竜崎ははっとパソコンを見る。
松田が振り向くと同時にカメラも動く。
パソコンに映し出されたのは、買い物帰りと見受けられる月の姿だった。
すっかり奥さんになった月に、竜崎は満足そうに微笑む。
だが、次の瞬間その笑顔は消されることになる。

「あ、月君」
「松田さん、その箱…」
「え?」
「カメラ、見えてますけど」

ビシッと何かに亀裂が走る。
硬直したのは松田だけでなく、カメラの向こうの竜崎も同じだった。
月は恐ろしいまでの笑顔を浮かべると、松田の手から段ボールを奪い取る。
そして、カメラとマイクを見つけるとにこやかに笑った。

「何してるんだよ、この馬鹿!」

瞬間、段ボールは地面に叩きつけられノイズがパソコンに映し出される。
帰宅するのを先延ばしにしようかと考える竜崎だった。

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