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満更でもない生活。
しかし、決定的に欠けているものがある。
それを竜崎が口にしたのは、小鳥たちも囀り始める朝早くのことだった。
「私たちには、夜の時間が欠けているように思えます」
「それよりも、今日は本部に行かないのか?」
「それよりもって…!酷いですよ!」
「酷くて結構。で、本部には?」
「…大きな事件も片付いたので、今日は午後からです」
「へえ」
淡々と返す月は、既に今日着るための洋服を出そうとしている。
自分に背中を向ける月の姿に、竜崎はつまらなそうに眼を伏せる。
つまらない。
そう、何かに欠けている。
やはり、夜の生活がないからだと思うのだ。
「月君」
「何だ?」
「今からでも、愛を育みませんか」
「朝から盛る暇があるなら、朝食でも作れ」
にっこりと笑う月に負け、竜崎は私服と変わり映えのないパジャマを脱ぐ。
そして、既に隣に用意されていた私服に手をつけた。
いつも。
毎晩、月はこの場所で寝てくれている。
しかし、関係に及んだことと言えば片手で数えても足りるくらいだ。
夫婦になる前の方が、それなりに恋人同士として慈しみあえたようにも思える。
「月君は、冷たいです」
ポツリと呟いた一言に、ピクリと反応を示す月。
月はパジャマ姿のまま、竜崎の隣に腰かけた。
突然軋んだベッドに、竜崎は驚きの目を向ける。
「月君?」
「冷たいって、竜崎が言えることじゃないだろ」
「私はいつでも、愛情を持って家族に接していますが?」
「なら、もっと時間を取ってやれ」
月の言葉に、竜崎は納得したように頷いた。
一般家庭で育ってきた彼だからこその言葉。
彼は、そういう類には敏感なのだ。
何よりも家庭を大事にするのだ。
ましてや、自分が仕組んだこととはいえ一気に子供が二人も出来てしまった。
母として優秀な月。
その愛情は、いつしか本物となり家庭を守る存在になっていたのだろう。
「子供達が、可哀そうだ」
月の寂しそうな声。
竜崎は決定的な確証を得て、月を後ろから抱き締めた。
「月君は、素敵ですね」
「…誤魔化しは通用しないぞ」
「誤魔化す気はありませんよ。こうして、一人では補えない知恵を月君から貸してもらってるんです」
「え?」
「もっと、家族でいたいですから」
月を包み込む、温かな言葉。
誰よりも家族を望んでいたのは竜崎だと、月は気づく。
そして、竜崎が家族というものを知らなかったのだと思いだした。
彼にとって、家族とは何だったのだろう。
そして、今ある家族はどんな存在なのだろう。
何故だか、自然と後ろの存在が愛しくなった。
「そう、か」
月は微笑んで、黒髪を撫でる。
優しい手に、竜崎は答えるとそのまま月にキスをした。
久しぶりの甘い空気。
触れるだけのキスでも、十分に味わえる幸せ。
しかし、その空気を壊したのは他でもない竜崎だった。
「じゃあ、家庭円満のためにも夫婦の絆を深めましょう」
どこか楽しげな口調に首を傾げれば、瞬く間にベッドに押し倒された。
突然のことに驚いて見上げれば、また口を塞がれる。
「おい!朝食…!」
「大丈夫です」
微笑んだ竜崎に、月は唖然とする。
そんな月の服の下に竜崎が手を伸ばした。
瞬間、バンという盛大な音と共に寝室のドアが開いた。
「朝から盛ってんじゃねーよ!」
「最低ですね、竜崎」
ドアから現れたのは、不機嫌をあらわにするメロとニア。
その姿に、慌てて月は竜崎を蹴り飛ばした。
「二人とも!」
蹴り飛ばされた竜崎は、ベッドから転げ落ちて月を見る。
「月君、酷いです…!」
「酷いのはてめーだろ!」
「月さんを襲っていたのは誰ですか?」
月が答える前に、子供たちの鋭い視線が竜崎へと向かう。
その言葉に、月は自然と竜崎へ救いの手を伸ばすことを止めていた。
これも父親の定めだ、と、情けない竜崎の姿を見ながら月は朝食を作りに部屋から出て行った。
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