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月の一言を優先したが故に成立した、家族が揃う休日。
竜崎も今日ばかりは手を休め、ソファに座りケーキを食べている。
正直に言うと、こうして休んでいた方が竜崎にとっても楽だった。
目の前では、大きなテレビ画面を占領してメロが最近発売されたというゲームを楽しんでいた。
子供たちの部屋にもテレビはあるのだが、どうも大きな画面でやりたいらしい。
確かに、ハイビジョンな上に音響設備も整備されたこの場でやるのは爽快だろう。
「煩いです」
バイクレースの生み出す轟音に、ニアがパズルを崩しながら不満そうに口を開く。
「だったら、自分の部屋でやれば良いだろ」
「ゲームだって、部屋で出来ます」
「俺はここが良いんだよ」
プイと顔を背けたメロに、ニアは少しばかりむっと眉を寄せる。
子供たちも、用意した学校に通い始めた。
特にたいした問題も家庭に入らないことから、それなりの学校生活を楽しんでいるらしい。
三者三様の休日を楽しむ中、月は呆れたような笑顔と共にメロに歩み寄った。
「おやつ、出来たよ」
「マジ!?」
「うん。だから、ゲームはもう終わりにしよっか」
「おう」
セーブもせずに、メロはゲーム機の電源を切る。
それほどまでに魅力的なのは、月の作ったおやつ。
月は腕を磨くためと言っているのだが、休日のおやつは月の手作りと決まっていた。
おやつの言葉に、ニアもパズルを部屋の片隅に山積みにした。
竜崎も残っていたお菓子には手をつけず、キッチンよりに置かれた大きなテーブルに向かう。
椅子に座った三人を見て、月は冷蔵庫で冷やしていたカップを取り出す。
「今日はメロのリクエストに答えて、チョコムース」
「苺のショートケーキ…」
「竜崎はいつも食べてるだろ」
ポツリと呟かれた言葉に、月は苦笑しながら三人の前にそれぞれ置いていく。
夫婦生活が始まった頃、おそろいで買ったマグカップ。
グラスも、スプーンも、箸も、全てお揃い。
色違いのそれを並べながら、月も席に着いた。
「じゃあ、食べようか」
「いただきます!」
真っ先に笑顔でスプーンをチョコに埋めていくメロ。
にこにことした笑顔に、こちらまで癒される。
すると、竜崎も結局は甘いものには敵わないのか、スプーンを手に取っていた。
「いただきます」
ぱくっと一口食べて、どこか幸せそうにする。
そんな姿の隣で、ニアが相変わらずの無表情で小さく言った。
「いただきます」
行儀は何よりも大切なことだ、と月が真っ先に三人に教えた言葉。
勿論、いってきます、お帰りなさいも大切な言葉に入る。
三人の言葉に満足そうに頷き、月もチョコムースにスプーンを入れた。
そして、何故かいつもより反応の薄い竜崎に首を傾げ声をかけた。
「竜崎、美味しい?」
「はい。…あの、この際だから今言います」
「え?」
嬉しそうにスプーンを動かす子供たちには、美味しいかと聞かなくても答えがわかった。
そのことに、こちらまでも嬉しくなってしまう。
穏やかな空気の中、竜崎はどこか言いづらそうに視線を逸らす。
話を持ち出したのは竜崎だろうと月が目で言えば、竜崎は仕方がないと口を開いた。
「現地に行かないと片付かない事件が出来ました。イギリスに、一週間ほど行ってきます」
「イギリス?」
「俗に言う、出張ですね」
「いっそ、単身赴任でもしたらどうですか?」
「俺も賛成」
「お前達…」
竜崎の言葉に、サラリと言葉を返してきた子供たち。
当の月と言えば、突然の発言に目をぱちくりとさせ口の中で「出張」と何回も呟く始末。
どこか放心状態の月の姿に、竜崎はあえて何も言わず子供たちを見た。
「私がいない間、月君のことを頼みますよ」
「はい」
「任せとけよ」
会話をしながらも、手を動かすことはやめない。
なくなっていくチョコムースを片目に、月は納得出来ないようにパクリとチョコムースを食べた。
先ほどよりも、少しだけ苦かった。
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