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出張に行くと言っても、竜崎が家を出る時間は変わらなかった。
月はいつものように、竜崎を見送るために玄関に立つ。
一晩経っても、どうしても離れない言葉。
「出張、か…」
「月君?浮かない顔をしていますよ?」
「いや、なんか、ピンと来なくて」
恥ずかしさを隠すように、頬をかく月。
竜崎はその姿に愛しさを感じて、月の頬にキスをした。
「私がいない間、二人を頼みます」
「…まったく、僕を誰だと思ってるんだ?」
「私の最高の奥さんです」
「どうも」
どうしようもないんだから。
月は笑う。
そして、滅多にしないキスを竜崎の頬にした。
「いってらっしゃい」
「はい。いってきます」
名残惜しそうにしながら、竜崎は月に背中を押されて家を出る。
一週間なんて、長くて、短くて。
少し寂しいと別れた瞬間に思うのは、気の迷い。
月は頭を振って、子供たちを起こそうと気を取り直す。
しかし、珍しく子供たちは起こさずとも既にリビングにいた。
「あ、おはよ!」
「おはようございます」
元気よく響いてきた声と、しっかりとした声。
いつも朝食の手伝いをしてくれているメロがいるのは納得できるが、低血圧のニアまでいるのは珍しい。
目をぱちくりとさせながら、月も答えた。
「おはよう。二人とも、早いね」
「今日は用事があってさ」
「用事?」
メロの言葉に首を傾げる月。
すると、隣にいたニアが補足するように口を開いた。
「今日、私達の友達が来ることになっているんです」
「友達って、学校の?」
「いえ、ワイミーズです」
ワイミーズと言えば、二人の育ったところであり、竜崎がいたところでもある。
聞きなれたようで、よく知らない施設。
そして、そこから来る二人共通の友人ということに月の関心が向く。
二人がふと上を見たので月も釣られてそちらを見れば、壁掛け時計が8時を示していた。
メロが小さく呟く。
「確か、夜に出たって言ってたよな」
「そろそろですね」
二人の声と同時に、チャイムが鳴る。
インターホンにつけられたカメラには、何も写らない。
月が首を傾げながら玄関へと向かうと、それに続くように二人とも立ち上がった。
不審そうにしながらも、ドアを開ける月。
その向こうには、楽しそうに笑う少年の姿があった。
「久しぶりー、メロ、ニア」
楽しげに笑う彼の瞳は、ゴーグルで隠れて見えない。
見たところ、メロとそう変わらない年齢のようだ。
名も知らぬ少年に月が戸惑っていると、背後から二人が声をかけた。
「遅かったな、マット」
「朝からチャイムを鳴らすのは、少し近所迷惑な気もしますが」
慣れたように返す二人に、これが友達なのかと思う。
マットと呼ばれた少年は、月に視線を向けて笑った。
「はじめまして。俺、マット」
「あ、僕は月。宜しく」
「こちらこそ」
月の差し出した手を握り返し、マットは楽しげに言う。
置き去りにされたニアとメロは、どこか不機嫌そうに眉を寄せた。
そんな二人の姿に、マットは苦笑すると持っていた紙袋から箱を出した。
「ほら、メロにお土産。最高級のチョコ持ってきたから」
「…珍しく、気がきくじゃねーか」
「まね。で、ニアにはこっち」
「新しい玩具、ですか」
「最新式だぜー」
二人の扱いもお手の物。
月が唖然としていると、マットは次いで紙袋ごと月に差し出した。
「これは?」
「よくわかんなかったから、とりあえずクッキーの詰め合わせ」
「どうして、僕に?」
「月にっていうか、皆にみたいな」
意味がわからずに首を傾げる月。
その隣で、貰ったチョコを早速食べ始めていたメロが問う。
「そういや、お前も日本で暮らすんだよな?」
「ああ。だから、一応竜崎にも、って持ってきたんだけど」
「あいつなら、今頃イギリスだぞ」
「すれ違いか!」
やっちゃったなあと、肩を上げて言うマット。
そして、続けて言った言葉は久しぶりにこの家に衝撃を齎した。
「ま、隣に住むんだし帰ってきてから話すかー」
「は?!」
友達と言っていたメロとニアさえも聞いていないらしく、メロは驚いてマットを見る。
マットは楽しそうに笑った。
「二人にも内緒にしてたけど、今日から宜しく」
そんな意味の、プレゼントです。
手に持ったプレゼントを見つめ、三人は顔を見合わせた。
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