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昼食の用意が出来たところで、月はリビングを覗いた。
見れば、そこにはゲームで遊んでいるメロとマットの姿。
聞いたところ、メロが竜崎に引き取られてから一回も会っていなかったのだという。
友達と久しぶりに会えば、いくら遊んでも足りないだろう。
苦笑しながら、4人分の昼食をリビングに並べる月。
すると、不意にニアがパズルをしていた手を止めた。
「月さん、私も手伝います」
「そう?」
「はい」
「じゃあ、コップを運んでもらえるかな」
「いつもので良いですか?」
「うん。マットには、お客様用の出してあげて」
「わかりました」
頷いて立ち上がるニア。
マットから貰ったロボットの玩具を鳴らせながら、グラスをテーブルに置いていく。
微笑ましい光景に、月は自然と微笑んだ。
「俺も手伝うよ、月」
「あ、じゃあ、俺も」
ニアの手伝いに気づいたのか、慌ててゲームを片しながらメロが言う。
マットもそれに付き合うように、ゲームを片付けている。
お客様に手伝わせるわけにもいかないのだが、月の見ている前でメロは朝食のときと同じように食事の乗った皿をテーブルに並べていった。
人数分の箸は、何故かマットが用意している。
不思議な光景に唖然としていると、マットが不意に口を開いた。
「月さん、これって…」
「うん。マットの分」
「ありがとうございます!」
ぱっと顔を輝かせるマットに、月も作ったかいがあったと笑った。
そして、4人はそれぞれ席に着く。
開いている場所が無かったので、いつも竜崎が座る席にマットが座った。
少し不自然だが、それでも空間は埋まるものだ。
月は増えた子供の世話をしながら、楽しげな空間に身を任せる。
いただきます、と三人の声が重なった。
少し、こそばゆい。
月が箸を進める中で、楽しそうな三人の声が響く。
「マット、お前って箸使えなかったんだ」
「これから勉強すれば良いんだよ」
「そういうメロだって、日本に来るまでは箸の存在すら知りませんでしたよね」
「存在ぐらい知ってたっつーの!」
「ニアは箸使えるのなー」
「これぐらいは」
「今、すっげえ悔しい」
「悔しがっても何も生まれません」
「ニア、てめえ!」
「おお、相変わらず。でも、静かにしないと月さんに怒られるぞ」
マットの一言に、空気が固まる。
月は何故そこに自分の名前が出てくるのかと首を傾げた。
確かに、そろそろニアとメロの口論が煩くなったと思っていたが。
本音は口にせず、月は苦笑しながら言った。
「煩いのは子供の特権だよ」
「そうか?」
「でも…」
不安そうな表情を見せる二人に、月は笑った。
「それよりも、早く食べてデザートにしよう。今日は、ケーキ作ったから」
「月さんて、何でも出来るんですか?」
どこか口調がしっかりとしているマットに月は頬をかいた。
竜崎に今朝食べさせてあげた残りだとは、口が裂けても言えない。
誤魔化すように、月は提案した。
「何でもは出来ないけど、良ければマットにも食事を作るよ」
「え?!」
「おすそわけ、ってことになるけど」
「それでも、嬉しいです!」
心から喜んでいる笑顔に、こちらまで釣られるようだ。
そんな二人を見ていたメロが、不機嫌そうに口を開いた。
「マットの猫かぶりー」
「羨ましいのか?」
「べっつに!」
「羨ましいなら、素直に口に出せば良いんですよ」
「そういうニアも羨ましいんだろ」
「…私達は、毎日月さんの料理が食べられますから」
拗ねる二人に、マットは笑う。
楽しげな笑い声が響く中、月は一週間食事を共に出来ない存在を思った。
少し寂しいと思ったのは、気のせい。
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