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それは、真夜中に起こった事件だった。
「月ー!頼むから、マジで!マジで止めて!」
「…いや、止めたいけどコレを見終えないと納得しない!」
「そ、そうですよ、メロ。このままでは、この人は永眠できないんですよ」
「いや、永眠とかそういうレベルじゃないから!」
「成仏しないと、テレビから出てくるかもしれないじゃないか」
「ちょっと前に、流行りましたよね」
「…流行ったから、マジで止めろー!」
既に言葉も意味を無くし始める。
時計はそろそろ日付が変わる時を示している。
三人は暗いリビングで一つの毛布に包まり、大きなテレビに写る不気味な映像を見ていた。
「大体、借りてきたのはメロだろ?」
テレビから視線を離さず、月は言う。
悲鳴が響く中、慌ててメロは月に抱きつく。
「ち、違う!マットが買ったからって…!」
「マットが元凶ですか。趣味の悪い…」
メロとは反対側から月を抱きしめ、ニアは毒づく。
趣味の悪いとニアが言い切ったのは、俗に言うホラー映画だった。
話を遡ること、今日の夕飯の時間になる。
マットは日本に来てから忙しいのか、食事がおろそかになっていた。
その為に、以前約束した食事をメロがマットの家に届けた。
いつもならば、渡して早々に帰ってくるメロ。
だが、今日は違っていた。
帰ってきたメロの手には、いかにもそうですと言わんばかりのDVDがあったのだ。
竜崎もいない家は静かで、三人とも手持ち無沙汰になっていた。
そんな中に飛び込んできた珍しい話に、月とニアも自然と乗り気になる。
早々と夕食を片付け、風呂に入り、寝る準備までしてテレビに向き合うまでは良かった。
しかし、いざ始まってみると三人の表情は凍りつくのを通り越し、青ざめる。
悲鳴が響くオーディオから遠ざかることも出来ず、三人はテレビへと向き合っていた。
そして、冒頭へと話は戻る。
「良いですか?ちゃんと最後まで見るんですよ?」
「そういうニアが一番震えてるだろ…」
「メロこそ」
言い合いながらも震える二人を、月の両腕はしっかりと感じる。
そういう月自身が既に言葉をなくしていたのは、この際言わなくても良いだろう。
メロは月の腕をより強く抱きしめながらテレビを見た。
「と、とりあえず、最後まで見るぞ…」
「この世から消えるところまで見ないと、夢に出てきそうです」
「恐ろしいこと言うんじゃねえよ、てめえ!」
「あ、出ました!」
「止めろ、馬鹿ー!」
テレビにドンという衝撃が伝わるように、画面いっぱいに血まみれの死体が叩きつけられる。
三人は声にならない悲鳴を上げた。
その時、部屋のドアが開いた。
「ただいま帰りました…って、何してるんですか」
「ぎゃー!」
突然付けられた部屋の明かりに、メロが悲鳴を上げながら立ち上がる。
そして、何を思ったのか用心の為に身に着けていたナイフをドアに向けて投げた。
カツンという音が響き、月とニアは慌てて振り向く。
「…りゅ、竜崎?!」
正気を取り戻した月が、ドアに貼り付けにされた竜崎の姿に目を丸くさせる。
硬直する三人の姿に、竜崎はメロとニアから銃を取り上げておいて正解だったと感じた。
避け切れなかった服がドアに貼り付けにされている。
竜崎は右腕の上に刺さるナイフを抜くと、小さくため息をついた。
「…何をしてるんですか?」
テレビからは恐ろしい音楽が流れ続ける。
三人は突然テレビから響いた悲鳴にびくりと体を震わせた。
その姿に竜崎は何が起きて自分がこうなったのか理解する。
ため息をついた竜崎に、月は慌てて口を開く。
「え、いや、それよりも、なんでお前がここにいるんだよ?」
「そういえば。まだ、一週間経っていませんよ?」
「今日で五日目か?」
三人から一度に言われた質問に竜崎は予想していたと答えた。
「家が心配になったので、早々と事件を片付けてきました」
「竜崎…」
「言っておきますが、ミスはありません」
唖然とする月に苦笑し、竜崎はぺたぺたと三人に歩み寄る。
そして、ゆっくりと一つにまとまった愛しい存在を抱きしめた。
「まったく…。帰ってきた私に言うことは?」
「あ、おかえりなさい」
「おかえり」
「おかえりなさい」
「はい」
月に続き、メロとニアも言う。
その素直な言葉に嬉しそうに笑い、竜崎は三人を抱きしめたままテレビへと視線を向けた。
「それよりも、感動の場面にこの映像は似合いませんね」
映像を止めようと、竜崎の手が動く。
しかし、それに気づき、はっとしたように三人は体を起こした。
「止めろ、馬鹿!」
「そうですよ!」
「は?」
メロとニアの珍しく息のあった言葉に竜崎は驚く。
何事かと思えば、メロは言った。
「このままじゃ、こいつが成仏できなくて俺達のところに来るだろ?!」
子供らしいと言うか、なんというか。
竜崎は反応に困り、月に助けを求めようとするがどうやら震える月も子供たちの味方のようだ。
無言で頷く月に、竜崎は仕方がないと三人を抱きしめたまま再度テレビを見る。
竜崎の腕の中で、三人は震えながらもまた映画鑑賞を始めた。
五日ぶりの再会に対する感動も何も無い。
それでも、ここが帰ってくる場所なのだと腕の中の三人は無言で告げる。
竜崎は嬉しそうに笑って三人をより強く抱きしめる。
翌朝、リビングで仲良く眠る四人の姿が朝日に照らされていた。
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