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子供味覚。(×・L月)

ふとした疑問が浮いた。
彼はどこから手に入れたのかわからないパンを、どこか幸せそうに食べている。
疑問が出来るのは、その袋故に、だ。

「…えーと」
「どうしました?」
「パン、なんだけど」
「これが?」

どうしました?
と、また一口パクリとパンを食べる竜崎。
月は可愛らしいプリントのされた袋を見る。
ミルククリーム入りと袋に記入されているので、余程甘いのだろう。
いや、そんなことではない。

「それを、固定名詞を使わずに説明する方法を考えてた」
「パンですけど」
「いや、そのパンの元手。売り出してるそこだよ」

袋の片隅にでかでかと書かれている今年の映画のタイトルを指差しながら答える。
竜崎も同じように目を向けた。
そういえば、映画は十周年を迎えるらしい。
相変わらず、子供達からの人気を集めて止まない。
月が考えていると、竜崎が袋を正しく摘みあげた。

「…説明、ですか。主人公が不思議な生物を捕まえる旅をしながら仲間を作って、バトルしていく物語をゲーム化したもの。不思議な生物は、ゲーム発売当初は151種類でしたが、今では492種類にまでなっています。アメリカでも映画化が進んでいますね。因みに、私は151種類までだったら歌えます」
「…歌、僕が小学生の時に流行ったな」
「そうです」
「…竜崎、お前、何歳だ」
「秘密です」

竜崎の説明に、月は頭を抱えるようにため息をつく。
重いため息が沈む。
相変わらず竜崎は美味しそうにパンを口に運ぶ。
この手の商品は、買い手を小学生レベルに下げているために味覚も小学生用なのだろう。
それを美味しそうに食べる竜崎。

「あ、中に練乳入ってます」
「良かったな」

淡々と答えながら、月は頭の片隅で思う。
口にする前に、竜崎が月の肩を叩いた。

「月君も、食べます?」
「何を?」

竜崎に目を向ければ、答えるまもなく口を塞がれた。

「ほら、甘いでしょう」

口から伝わる温もりと、甘い香り。
竜崎の言葉通り、甘かった。
ふわふわのスポンジが、ミルクの香りを残して過ぎ去っていく。

「…甘い」

だから、キスしたくないと思ったんだ。
視線を逸らす月に、竜崎は満足そうに微笑む。
鼻歌が聞こえた。
その歌は、昔はやった151種類を全て歌える歌だった。
本当に全部覚えてるのか、とか。
鼻歌歌えるのか、とか。
そんなことを考えていると、袋をつまんでいた竜崎がはっとした。

「どうした?」

異変に気づき首を傾げれば、竜崎がどこか悲しそうに答える。

「…点数のところまで切っていました」
「え?」
「ほら、ここの点数を集めると色んなものに応募できるんですよ」
「応募してまで、欲しいのか」
「いえ、別に」
「だったら、それでも競争率が高そうなものの倍率を上げるような真似はやめろ」
「そうですね」

大人しく頷き、竜崎は空っぽの袋を脇へと追いやる。
いつの間にか溜まってきた袋に、月は自然とため息をついた。

「ところで、お前、そういうキャラが好きだったのか?」
「松田さんが、面白そうだからと買ってきました」
「へえ」
「予想外に、好みでした」

パクリと最後の欠片を頬張り、竜崎は嬉しそうに言った。
月は口の中に残る甘みを感じながら、どうしようもないと苦笑した。

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