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幸せの定義を問われた。
正直、自分以外の幸せを理解出来る人間が存在するとは思えない。
問われるほどに、幸せは不確定要素を含んでいる。
無理難題だと思う自分が、不幸せなはずはない。
また、無理難題だと諦める自分がそれほど馬鹿なわけでもない。
即答出来る人がいるなら見てみたい、というのは誰もが思うことではないのだろうか。
ぼんやりとしていると、ピチャッと跳ねる音がした。
机に茶色の斑点が浮かぶ。
「拭いとけよ」
本に目を向けたまま、月は淡々と言う。
表情を変える必要もない相手は、やはり同じように無表情である。
言われた事に無言で伸びた白いシャツを捻る。
カタと陶器のすれる音がした。
竜崎は溢れた紅茶を服の裾で拭った。
「ワタリに怒られます」
「は?」
「服を汚しました」
「拭いたのはお前だろ」
「言ったのは月君です」
無駄な口論が続くと、月は口を閉じた。
余分な体力を必要のない場面で使うのは、覚えてる文章を読み返すほど無駄な行為ではないのかというのは月の持論だ。
黙りこんだ月の隣で、砂糖のついた指を舐める竜崎。
空いている手は食べ掛けのドーナツを離さない。
苺チョコの飾り付けられたそれは、見目味共に甘い。
月は黙っているのも癪だったので、本に手を置いたまま竜崎を見た。
「甘いもの、相変わらずだな」
「これがないと、推理力が半減するので致し方ないです」
「言葉のわりに楽しそうな口調だけど」
「そうですか?」
パクリとドーナツを一口。
竜崎はまた指を舐めた。
「まあ、甘いものに心を許しているのはありますが」
「…そんなことしてるなら、甘いもの食べなくても推理力を保つ方法を考えれば良いのに」
月は無糖の紅茶を飲む。
苦いはずの味が、隣の砂糖の固まりに感化されたように感じる。
「それは正論です。ですが、すると、私はブドウ糖の固まりを口にすれば良いですか?それとも腕に直接点滴した方が良いですか?どちらも芸術性に欠けると思いますが」
「確かに、見ている方は良い気がしない」
「でしょう?」
しかし、ここで満足そうな竜崎に同意するのはとても悔しい。
月がまた言葉を考えていると、竜崎が話を変えるように月の持っていた本を指差した。
「ところで、それは?」
あからさまだが、話を元に戻すのも馬鹿らしい。
「幸福論だ。大学が休みがちだから、レポートを出すように言われて」
邪魔だったかと問う月に、竜崎は別にと答える。
「それは、お疲れ様です」
「僕はれっきとした学生だから」
「私もですけれど」
しかし、休みについて竜崎が裏工作をしていないと言えば嘘になる。
そんな学生がれっきとしたものだろうか。
眉を寄せた月を無視し、竜崎は本を覗き込む。
「読んだことないのか?」
じとっと読む竜崎に問えば、竜崎は元のように座った。
「いえ。幼少の頃に原文で読みました」
「…あ、そ」
「思えば、当時も受け流していた気がします」
指を加え、竜崎は天井へと視線を向ける。
「風が吹く。鳥が飛ぶ。ヘッセが感じているのは、純粋にこれらと共にある自分が幸せだと言う事です」
「問題でも?」
「何を幸せと決めるのかは自分ということが、私の持論ですから」
同じ結論を持っているのがとてもつまらない。
月は自分の答えを口にしない。
「じゃあ、竜崎の幸せって何だよ?」
月は、ならばと逆に問う。
これで答えが返されても、やはり月の答えにはならない。
つまり、単に暇なのである。
竜崎はポツリと答えた。
「甘いものが目の前にあって、月君が傍にいるときは幸せです」
「…え」
「だから、二つ揃って私の幸せなんです。欠けたら不幸せになります」
竜崎は答えながらお菓子に手を伸ばす。
あまりにも平常と変わらないのに、月は不機嫌そうに言った。
「僕はお菓子と同列か」
大層な。
皮肉る月に、竜崎はお菓子から手を離した。
「お菓子と比べれば月君のほうが大切ですよ。月君は補充出来ません」
「生憎、僕は消耗品じゃない」
「だからこそ、大事なんです」
サラリと返され、月は固まる。
竜崎が大事だと言った意味が、自分の中で理解不能の域に達する。
理解したくないだけ、とも言えた。
「私は月君がキラだとか、そんな次元を抜かして好きです」
次元の一言で片付けられた、キラの存在。
それよりも、月には耳を疑う言葉があった。
「好き?」
「好きですよ。言ってませんでしたっけ?」
きょとんと言う竜崎。
月は自分の顔が熱くなるのを感じると「そ」とだけ、返した。
聞こえるとも聞こえないともわからない音量に、竜崎は小さく笑った。
※こんな風になりました吐血。
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