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酷く優しい手を愛していた。
ティエリアはついと指を伸ばす。
伸びてきた穏やかな指先に、刹那は顔を上げた。
「用事か?」
「いや、意味は無い」
「ティエリアらしくない」
「お前の中での俺はどういうものなんだろうな、刹那」
「さあな」
刹那は首元から零れ落ちそうになっていたマフラーを戻した。
その手に、ティエリアの端正な指が重なる。
ティエリアの指は、綺麗だ。
ただ、その一言に尽きる。
ティエリアは綺麗だ。
「どうして」
「刹那?」
「ティエリアは、どうして、綺麗なんだ?」
「お前の言いたいことがわからない」
綺麗とは自分では認めていない。
否、自分では認めにくいものだ。
ティエリアの尤もな言葉に、刹那は指を伸ばした。
さらさらと、髪の毛の一本の先まで整ったようなティエリア。
作られたような美しさ。
「過去を、聞いてはいけない」
「それはマイスターとしての掟だ」
刹那の呟きにティエリアは答える。
ああ、だからかもしれない。
謎が多い、マイスター。
誰一人として、正常な過去を知らない。
だから、ティエリアはこれほど美しく見るのだろうか。
「俺の過去が気になるのか?刹那」
「いや」
「そうか」
ティエリアは伸ばしていた指先を刹那の髪に絡めた。
刹那の髪は、癖が強い。
飛び跳ねる髪は、自分と正反対だ。
幼い顔が、自分の顔を覗き込む。
丸い瞳が、眼鏡に反射する。
「ティエリアの眼鏡は、強い?」
「度のことか?それなら、弱い」
「弱いのに、かけているのか?」
「一枚でも防護壁はあったほうが良い」
「防護壁?」
「そうだ。外界と自分を遮断する壁だ」
過去に触れられないように。
自分がこれ以上、外の世界と接しないように。
プライドが高いのは自覚していた。
だからこそ、自分は外界と接してはいけないのだ。
他人を傷つける。
自分を傷つける。
他人に振り回される自分は嫌いだ。
それでも、刹那の指に振り回されるのは心地よかった。
「刹那の指は、幼いな」
「綺麗だ」
「刹那の指か?」
「ティエリアの指は、綺麗だ」
指先が重なるようだった。
お互いに、ただ、髪を撫でる。
正反対のようで、正反対だからこそ鏡合わせの自分たち。
背中合わせは、離れることを許さない。
「ああ、髪に指が絡まった」
「ティエリアの髪は、俺の指から抜けていく」
どっちが絡まったのか、それは知らない。
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