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貴方は本当に。(○・ロクティエ)

史上最強で、最低で。
史上最高に、馬鹿な奴を知っている。
どんな事も真っ直ぐ見つめ、狙った獲物は逃がさない。
いつでも自由奔放。
それでも、縛られることを知っている。
誰よりも、きっと、大人。
それが、少し悔しかった。
ティエリアは、ヴァーチェの光から出ると小さくため息をついた。
光の渦。
情報の塊。
居心地が良いとは、決して言えない。
それでも、自分で望んだ場所なのだと思い、納得する。

「お疲れさん」

にこやかに、笑われた。
楽しげな笑みの裏に何かを隠して、ロックオンは笑う。
何を考えているの?
そんな質問、もう、消えた。
慣れ親しんだ笑顔。
誰でも快く胸に受け入れる笑顔。
あの、刹那でさせも。
自分の敵でさえも、彼は受け入れる。
そんな彼が、大人で、理解できないほど、大人で、悔しかった。
ティエリアは投げられたジュースを手に取った。

「…なんで」
「え?」
「…いや、違う。なんでもない」

ジュースを口に含み、ティエリアはそっぽを向く。
甘かった。
少し、甘酸っぱかった。
喉を潤す水分に、ティエリアは小さくため息をつく。
胸の中が渦巻いていた。

「ああ、そういえば、ヴァーチェの調子は?」
「え?」
「ミススメラギが何か気にしててさ」
「…そうか」
「それだけ?」
「いや、あとで俺からも聞きに行く」
「ふーん。それなりに、気になるんだ」
「俺の機体だ」

自分をガンダムにしてくれる。
誰よりもの味方は、自分そのものでもあるヴァーチェ。
機体が、自分。
自分が、ガンダム。
それが、心の支え。
ティエリアの真っ直ぐとした瞳に、ロックオンは苦笑する。

「ティエリア、眼鏡曲がってるぞ」
「ん、ああ」

軽くなおし、ティエリアは振り向いた。

「ヴァーチェのデータを見た」
「それで?」
「お前、明日が誕生日らしいな」
「あ、そうだな。もうそんな時期かー。俺も年取るなあ」

苦笑いを零すロックオンに、ティエリアは無言でポケットをあさる。
出てきたのは、一枚のコインだった。
何も無い。
銀色の、コイン。

「これ、ロックオンに」
「え?」

突然の言葉に目をぱちくりとさせるロックオン。
空中をゆっくりと浮いてくる銀色の物体を受け取り、またも瞬き。

「ティエリア?」
「…どうも俺は、こういうのに向いてないらしい」
「そっか」

ロックオンは耐え切れないというように、盛大に笑った。
清清しいまでの笑い声に、ティエリアの胸がまた複雑になる。
何で。
何で。
もう、そんな疑問を抱く心は失った。
いつでも、心にあるからこその、謎。
ティエリアの疑問に答えるように、ロックオンは笑う。

「宝物にするよ」
「そんなものをか?」
「お前、人にプレゼントって言っておいてなあ…」
「それ、しか…」
「俺が、ティエリアから貰って嬉しいと思ったの。それだけ」
「ロックオン?」
「俺は、ティエリアが好き。ティエリアも、俺が好き。だから、何でも嬉しいの」

理解できるか。
小さく笑われ、ティエリアは硬直する。
だが、瞬時顔を紅く染めた。

「違う!誰が、誰が、お前なんか…」
「うっ、やることやっておいてそれは…」
「煩いっ!」

眼鏡までも曇りそうだ。
真っ赤に染まる、ティエリア。
ロックオンはその後姿に微笑み、ゆっくりと抱きしめた。

「ありがとう、ティエリア」
「ロックオン・ストラトス…」
「…何で、フルネーム?」
「わからない」

ティエリアの率直な言葉に、ロックオンは楽しそうに笑った。
そんなんだから、好きなんだ。
だから、馬鹿になるんだ。



夢を、見た。
自分の代わりにロックオンが傷つく夢だ。
夢を、見た。
夢だった。
ああ、でも。

「ロック、オン…」

ティエリアの小さな悲鳴は宇宙に吸い込まれる。
その目の前には、破損したガンダムが一機あった。
夢なら、覚めて。

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