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初めて絶望を教えてくれたのは、よりにもよって貴方でした。
ああ、なんという不幸。
しかし、中世ヨーロッパに名を馳せた人物などになれるわけがない。
なんという。
なんと。
見つからない言葉に空を仰いだ。
晴天に、真白のちり紙を千切ったような雲が浮かぶ。
情緒に浸る暇もなく、口寂しげに竜崎は爪を噛んだ。
「あの雲、綿菓子みたいです」
「僕には波に見えるけど」
「文学を勉強していたら、今頃レポートで苦しんでいましたね」
「誰に言ってるのかな」
「月君にですけど」
それが何か。と素っ気なく。
答える竜崎に月はやり場のない言葉を噛み殺す。
眉がよった。
文学の才能に関してとやかく論議をするつもりは毛頭ない。
しかし、竜崎にそれとなく見下されたようなのは聞き捨てならないのだ。
「それにしても、綿菓子なんて竜崎らしいね」
自分にとって展開の良い道を考え、月は言う。
竜崎は空を見ていた。
「綿菓子、チョコ、バームクーヘン」
「食べたいんだ?」
呆れたように月は聞く。
「そう見えます。だから、きっと食べたいのでしょう」
竜崎はどうとでもないと言う。
空を見た。
冬を目指す空は澄み、冷たい固まりを抱えていた。
「ああ、」
ポツリ。
竜崎が口を開く。
「月が見えます。月君です」
言葉に月が空を見れば、水色の淡さに翻弄される球体が細々と影を落としていた。
「月君が食べたいんです」
「ば、」
月は口を瞬時に閉じて咳払いで誤魔化した。
「馬鹿じゃないのか。もう、休憩も終わりにして戻るぞ」
言い直した月の姿が愛しく、竜崎は背中に微笑む。
耳まで赤く染めた、未だに純情ぶる彼が愛しくて。
それでも、幕は。
喜劇と歌劇と悲劇とを混ぜたようなオペラの舞台に立たされた気分に満ちた。
独りの舞台は慣れていたはずなのに、彼がこの場の寂しさを教えた。
絶望。
だが、そんな闇さえも振り払うのは正しく彼が差し出す手。
「ほら」
「はい」
ああ、愛しいの。
どんな劇でも良いから、二人を舞台に立たせて欲しい。
月が自分のものになれば、舞台にも明かりが灯るのだ。
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