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名前。(×・L月)

名前が欲しかった。
そう。
名前が、欲しい。
彼だけの名前が欲しい。
竜崎の言葉に、月は首をかしげた。

「名前なら、お前にだってあるだろ?」
「これは、偽りです。確かに私という個体の名称ではありますが」

爪を噛みながら、竜崎は月の尤もな意見に答えた。
そもそも、自分の存在は何か。
何をもって自分を自分と認めるのかは、竜崎にとって永遠の課題でもあった。
何も自分を示さない。
そんな環境で、生きてきた。
しかし、だからと言って卑屈になることは一度も無かった。

「そういえば、何故でしょう」
「え?」
「こんなこと、今まで考えませんでした」

自分をそういう存在だと認識していたからか。
考えるが答えは出ず、悔しくなった。
対して、唐突な話に月は始めから読めないことばかりだ。

「何を初めて考えたんだ?」

月の一言に、竜崎は宙を見た。

「名前です」
「だから、お前にも、」
「違います。月君の名前が欲しいんです」
「は?」

話を自分に向けられ、月は眉を寄せた。
何を言うか、と竜崎を睨み付ける。

「僕の名前は竜崎と違って月だけだ。欲しいなら、同じ偽名を使えば良いだろう?」
「違います」

思ったよりも言葉が早く出る。
その事に、言われた月は勿論、竜崎までもが内心驚く。
だが、お陰でわかった。

「私は、月君が欲しいです。名前も、存在も、全て」
「…僕の名前を欲しがるのは、ただの独占欲にしかならない」
「それもあります。が、私は月君という貴方の存在を私に認知させる確定的なものが欲しい。きっと、月君の存在が必要不可欠です」
「熱烈な告白、ありがとう」
「顔が笑っていません」
「まあ、ね」

一体、どう反応しろと。
乾いた笑いで誤魔化して、月は視線をそらす。
竜崎はその隣で謎が解決したことに嬉しそうに笑った。

「幸せです」
「そう」

口調からもわかる事に、月は苦笑を溢す。
どこか竜崎が幼く見えた。
何故か面白いと、月は竜崎を心持ち遠くから観察する。
視線に気づいた竜崎は、月に対して笑った。

「好きですよ」

名前の欠片さえも欲しがるほどに。
時に無邪気な言葉に、月は顔を赤らめる。
独占されるのも悪くないだなんて、思った。

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