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明るい笑い声が玄関から響く。
夏休みもそろそろ終わりを告げる。
夕日に照らされた木に止まり、セミが最後の声で鳴いていた。
「ただいまー!」
「ただいま帰りました」
二人の声に、月はひょこりと玄関を覗く。
見れば靴をいそいそと脱ぎながら、心持ち楽しそうにしている姿があった。
「おかえり」
「月!これもらったんだけど…」
真っ先に月に駆け寄り、手に持っていたプリントを見せるメロ。
月は何事かと、渡されたプリントを見た。
「…お祭?」
「おう」
「今日の夕方から、駅前であるそうです」
「ニアも行きたいんだね」
補足したニアに月が微笑めば、ニアは少しだけ恥ずかしそうに俯く。
彼らの今までを考えると、祭りになんて滅多に行けなかったのだろう。
まして、彼らが日本に来てから初めての祭りである。
興味は尽きない。
祭りのプリントを持ちながらこちらを不安そうに見上げてくる子供に、月は笑った。
「じゃあ、今日は夕食いらないかな?」
「え?」
「月さん?」
「どうせなら、祭りの屋台で食べたいでしょ?」
提案に、曇っていた顔も笑顔に変わる。
「屋台って、何が売ってるんだ?」
「うーん。メロが喜びそうなのは、綿菓子とかリンゴ飴」
「玩具はあるんですか?」
「射的の景品としてなら…」
呟く月に、メロが驚いたように顔を上げた。
「射的があるのか!?」
「日本でも銃の所持が認められたんですか?」
ニアまでも驚いている。
そんな二人に驚くのは月の方だ。
「いや、玩具の銃だから」
苦笑する月に、ニアはそんなものかと頷く。
メロはどこかつまらなさそうに、口を尖らせた。
「なーんだ。折角、竜崎を始末するチャンスだと思ったのに」
冗談に聞こえないのが恐ろしい。
乾いた笑いを月が返していると、ニアが眉を寄せた。
少しは父親に対して愛着でも沸いているのだろうかと、月は見守る。
ニアはサラリと言った。
「それでは、私達に容疑がかかります。もっとスマートにしなくては」
「あ。確かに月に迷惑かけるのは嫌だ」
そういう問題ではないだろう。
随分と自由に育った子供は素直に言う。
月は、竜崎がここにいなくて良かったなどと頭の片隅で考えた。
その時、ため息が何やら相談をしている子供たちの上から漏れる。
「…何を考えてるんですか、お前たち」
「あ、おかえり、竜崎」
「はい。ただいま帰りました」
月の誤魔化すような笑顔に頷き、竜崎は二人を見下ろす。
どこか険悪な雰囲気に、月は慌てたように言った。
「それよりも、今日は早かったんだな」
月の声に三人は顔を上げる。
そう言えば、と言った様子のニアとメロ。
竜崎は呆れながら、祭りのプリントを指差した。
「ワタリから面白い話を聞いたので、呼びに来たんです」
「え?」
「車を待たせてあります。早いですが、駅前に行きましょう」
竜崎は言うなり、早々と車に乗り込む。
残された三人は驚きながらも、どこか嬉しそうに竜崎に続いた。
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