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違う。
例えば、名前、姿、声、笑い方、癖、仕草、思考、指先、歩く速度、瞳、顔、足の長さ、笑えない洒落。
全てを否定出来たら、どれだけ楽だろうと思った。
しかし、新しく出会ったロックオンは記憶と一致していた。
ただ向こうは何を考えているのかわからないので、全てが一致しているとも限らない。
それだけが幸いだった。
考えがわからないところは似ている。
似ているからこそ、わからない。
わからなくて済む。
彼にかける声を考えるのに、直感型の自分には珍しく頭を悩ませた。
高い声、低い声、冷静な口調、命令口調、彼しか知らない声。
しかし、悩むのも馬鹿らしいと笑うように素っ気ない言葉が彼を呼び止めた。
振り向かないで、振り向いて。
反する思考は、無理矢理現実とは離れた次元に押しやる。
ただ、一言。
「ライル」
そう、彼は、ライルは、彼ではない。
だから、彼に、ロックオンに見せていた姿を曝さなくて良い。
皮肉に彼は笑った。
「何だ?刹那」
胸に針が刺さった。
飾り針の様に、余り刺激を感じさせないにも関わらず、痛みと不愉快さが残る。
「…なんでもない」
「そうか」
てっきり、兄さんの話でもするんだと思った。
笑う彼に、刹那は背を向ける。
風がマフラーをさらう。
流れる気持ちを抑え込んだのは、彼だった。
「…兄さんのこと、好きだったか?」
背の高い彼からの、少しトーンの低い声。
刹那はマフラーを直す。
彼は、また口を開いた。
「ロックオンのこと、好きだったか?」
「答える理由がない」
黙っているのも悔しく、言った。
ああ、そうだとも。
好きだった。
愛していた。
何もかも。
例えば、名前、姿、声、笑い方、癖、仕草、思考、指先、歩く速度、瞳、顔、足の長さ、笑えない洒落。
何もかもを、愛していた。
例えば、自分に触れる優しい手も、暖かい唇も、愛していた。
「そっか」
彼はそれきり。
刹那は、流れていく冷たい風を肌で感じた。
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